結婚第1号の話



「かけまくもかしこき伊邪那岐、伊邪那美の神の御前に、かしこみかしこみて申さく、今日の佳き日のたる日に・・・」と神主が祝詞を唱え、結婚式を挙げるカップルも多いこの頃であるが、 さて、日本(豊葦原千五百秋瑞穂国)で最初に結婚をした(=まぐわひした)のは誰であろうか。
霊長類から分かれたホモサピエンスの大陸大移動の類の話ではない。我らが遠い先祖のロマンスの話である。 大昔のことであるから、大八洲(おおやしま)が出来た頃に遡らねばならない。

元明天皇のときの和銅五年(712)に作られた「古事記」、元正天皇のときの養老四年(720)に作られた「日本書記」によると、
昔、高天原に天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、神産巣日神(かみむすびのかみ)、など五柱の神さまがいた。しかし何れも独り神、つまり結婚していない神さまであった。ところがその後伊邪那岐(いざなぎ)、伊邪那美(いざなみ)という男女の神さまがあらわれた。
そのころは天地が混沌としていた。天か地か陸か海かもはっきりしていなかったのである。それではどうも住みにくい。
そこで、天之御中主神など五柱の神さまが相談して、後伊邪那岐、伊邪那美の夫婦神に天沼矛(あめのぬぼこ)を与えて国産みを命じた。独り神では国産みは出来ないが男性と女性の夫婦神なら可能だと思ったのである。

両神は折角のご命令であるから、ではやってみますと言って、天の浮橋の上から、天沼矛で混沌とした下界を搔き廻すしたところ、沼矛の先端から雫がぽたぽたと落ちて固まり、そこに淤能碁呂島(おのごろじま)が出来た。両神は早速この島に降りてきて、国産みをすることにしたのである。

「古事記」によると、
於其嶋天降坐而。見立天之御柱。見立八尋殿。於是問其妹伊邪那美命曰。汝身者如何成。答曰吾身者成成不成合處一處在。爾伊邪那岐命詔。我身者。成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處。刺塞汝身不成合處而。以爲生成國土生奈何。伊邪那美命答曰然善。

と書かれている。漢字ばかりで読みづらいので、読み下し文にすると、

その島に天降(あも)りまして、天の御柱(あめのみはしら)を見立て八尋殿(やひろどの)を見立てたまひき。
ここにその妹、伊耶那美命(いざなみのみこと)に問ひたまひしく、「汝(な)が身はいかに成れる」と問ひたまへば、答へたまはく、「吾(わ)が身は成り成りて、成り合はぬところ一處あり」とまをしたまひき。
ここに伊耶那岐命(いざなぎのみこと)詔(の)りたまひしく、「我が身は成り成りて、成り餘れるところ一處あり。故(かれ)この吾が身の成り餘れる處を、汝が身の成り合はぬ處に刺し塞(ふた)ぎて、國土(くに)生み成さむと思ほすはいかに」とのりたまへば、伊耶那美命答へたまはく、「しか善けむ」とまをしたまひき。
そこで、
爾伊邪那岐命。詔然者吾與汝行迴逢是天之御柱而。爲美斗能麻具波比如此云期。乃詔汝者自右迴逢。我者自左迴逢。約竟以迴時。伊邪那美命先言阿那迩夜志愛袁登古袁後伊邪那岐命言阿那迩夜志愛袁登賣袁。

伊邪那岐は左回りに、伊邪那美は右回りに天の御柱を巡り、出会った所で伊邪那美が「あなにやし、えをとこを」と伊邪那岐を褒め、伊耶那岐が「あなにやし、え娘子(をとめ)を」と伊邪那美を褒め、二神は麻具波比(まぐわひ=性交)なされた。
二神の麻具波比(性交)の結果、大倭豊秋津島(おほやまととよあきつしま=本州)、筑紫島(つくしのしま=九州)など大八島国(おおやしまのくに)の八島をお生みになられた。

ここで、週刊〇〇のカメラマンもどきのスッパ抜き盗撮(?)写真を紹介しておきましょう。天の御柱のそばで密会(?)する二神のツーショット画像です。前・縄文時代を彷彿とさせるショット、秀逸ナリ。

kmitoh375 blogより

又、画家の作に次のようなイメージ絵画もあります。

ekojiki.blog71 より

こちらは本物、日本画家高橋天山さんによる、【天の御柱】です。「伊邪那」は「誘う(いざなう)」の意で、「岐」は男、「美」は女を表しているそうだが、こんな美女のイザナミさんなら誰だって誘なわれてみたいものである。

高橋天山ブログ より

東宝映画、「日本誕生」での天の御柱のシーン。こちらの天の御柱は中央に洞があり、暗に男根・女陰をも暗示する意味深なるものがあります。

kiryu0 blogより

最後、極め付けは歓喜天翁作【國産之図】です。合掌。

歓喜天翁 blogより


神主に伊邪那岐・伊邪那美の神の御前に祝詞を唱えもらい、無事結婚式を終えた現在のカップルは、そのまま新婚旅行に出かけ、初夜(?)を何処かのホテルで迎えるパターンが一般的と思われるが、伊邪那岐・伊邪那美のように上手く「まぐわえる」のだろうか。
いや、伊邪那岐・伊邪那美の場合だって、最初は上手く行かなかったのである。古事記・日本書記に書かれているので、今少し紐解いていくことにしましょう。
現在のカップルは初夜と言っても、文字通り「初めて」のケースは少数派でしょう。カップルが付き合いを始めれば、どちらからとなく「誘う(いざなう)」ことがあっても不思議ではなく、性の知識情報も現在は昔とは比べものにならない状態であるから初夜でまごつくこともなかろう。
江戸・明治時代の特に武士或いは武士階級であった家系の女子には、親が結婚に家柄を重んじる風潮があり、婚前に男性とお付き合いなどはご法度、純真無垢・熨斗紙付きで嫁入りさせる教育をしており、性の知識などは皆無で、正に江木欣々女史の女閨訓や嫁入り道具の箪笥にこっそりと入れてやる枕絵(春画)などが必要だったのかも知れません。
文字通りお互いに、あるいは何方かが「初めて」の少数派諸氏の名誉のためにも言っておきますが、知識が有っても実戦となると「痛い〃」などと腰を引かれ、標的が動いて定まらないうちに、折からの心理的興奮も手伝って、ブレーキコントロールも効かず勝手に「発車」で終わる御仁も少なからずあられると聞き及んでおりますが、さも有りなん。悲観するなかれ。
さて、話題を古事記・日本書記に戻しますが、日本書記には 《第四段一書第五》一書曰。陰神先唱曰。美哉。善少男。時以陰神先言故、為不祥。更復改巡。則陽神先唱曰。美哉。善少女。遂将合交、而不知其術。時有鶺鴒飛来揺其首尾。二神見而学之。即得交道。と書かれている。現代語にすると。
《一書第五にいう。まず女神(陰神)が先に言葉をかける。「あら素敵な男性だこと」と。ところが女のほうから先に声をかけるのはよくないというので、あらためて男神(陽神)のほうから、「おお、なんと素敵な女性に会えたことよ」といって、さてそれでは、交合しよう(一書によると、私の体の陽のところで、あなたの体の陰のところをふさぎたいと思う)ということになったが、陰を陽でふさぐのはわかったが、 そのあとどうしていいか知らなかった。すると、そこに鶺鴒(セキレイ)がやって来て、尻尾を上下に振って見せた。ああそうすればいいのかというので無事に交合をした》
「陰を陽でふさぐ」だけでは、ベテラン諸氏のスローセックスかポリネシアンセックスでもあるまいに、ことが進まず、そこで鶺鴒に俗に云う「ピストン」動作(英語ではThrusting)を教えてもらったようだ。
これは人間様だけに限らず、一部の他の動物の交尾でも見られる動作で、お互いの性器を刺激して性感を高め合うのに役立つ。なお、蛇足ながら人間様には他の動物にはあまり見られない技も有ります。すなはち、茶臼を挽くように腰を廻す動作技(英語ではGrinding)である。女性が上になるとよく行うことから、女性上位のことを日本では「茶臼」と呼ぶ。(英語ではCowgirlと呼ぶのが一般的だが)

鶺鴒(セキレイ)に教えてもらったと云う”技”なるものが実際どのようなものか。鶺鴒は日常のエサとりの行動時など平常時でも常に、尻尾を上下にピクピク振っているのが観測される。
交尾時にだけ行う動作では無いように思うのだが、実際どのように行われたのだろうか。後世に書かれた”鴛鴦閨房秘考(おしどりねやのしぐさ)” 図解入り四十八手解説書には挿絵のような"せきれい本手"が解説されている。
解説によると、枕や、座布団などを二つ折りにして、女性の尻の下へ敷き込んで腰を高くすれば奥の深い所までカリがとどき、女性がウツツをぬかす、とあります。ただし尻のかひ物邪魔して思うように腰が使えず、ただピクピクさせるのみ、とある。
但し、鶺鴒から習ったのは、腰使いのことなのか体位のことなのか諸説あり、体位のことならば伊邪那岐は「うしろ取り、英語名 Doggy Style」でおやりになったことになるが。
諸氏も折あらば、伊邪那岐・伊邪那美が上手く「まぐわえた」と云う "せきれい本手" を一度お試しあれ。

伊邪那岐・伊邪那美の神の場合も最初の2回は上手く行かなかったと古事記には書かれている。
生子水蛭子。此子者入葦船而流去。次生淡嶋。是亦不入子之例。訳すと、不具の子蛭子(湿地などにいる平べったい吸血動物)を生んだ。この子は葦の船に乗せて流し棄てた。次に淡島を生んだ。この子も御子の数にはいれなかった。 これはやり方がまずいと云うよりは、女神さまのベッドマナーが良くなかったと書いておる。
伊邪那美命先言阿那迩夜志愛袁登古袁後伊邪那岐命言阿那迩夜志愛袁登賣袁。各言竟之後。告其妹曰。女人先言不良。雖然久美度迩興而。訳すと、伊邪那美が「あら素敵な男性だこと」と伊邪那岐を褒め、、、それぞれ言い終わって後、男神は女神に告げて、「女が先に言葉を発したのはよくない」とおおせられた。
この説には少々異論もあろうかと思いますので、ここでちょっと補足させて頂きます。同じ明治時代に生きた二人の女史、江木欣々と乃木静子が若き子女に説いた「閏での心得」には全く意見を異にして書かれているのをみても、頷けます。 江木欣々は男女は同権、夫お疲れの折など時には積極的にリードしてお互いに楽しみなさいと説くが、乃木静子は「色は乱れ易きものにして愛想をつかさるるは最も多く候故に閏中においては特に御淑徳を尊び順を以て助け、礼を以て乱を防ぎ恥を以て色を補ふ事に侯。 殿より如何に迫り給ふと自ら進んで商ふ歌妓に等しみだらの御振る舞い必ずあそばされまじく候。」又、「御家大事ともならむ時は能く其心を鎮めて殿御に従ひ奉り、武門の習ひにて討死ともあらん時は女々しき御挙動なく潔く殿御と共に 御自害遊ばされ、末代の誉れを残し給ふべし。」と書かれ、 勝ち戦ではあった日露戦争だが、多数の兵隊の死を悼み責任を取って自害した夫に従い、自らも自害した女性であった。

ともあれ、古事記時代ではまぐわひ(=性交)は男性主導型が良いと思われていたのだろうか。
イギリスのコンドームメーカー・デュレックス社の「グローバル・セックス・サーベイ」によれば、世界で最もよく行なわれている体位は騎乗位(Cowgirl)で29%。次点はバック(Doggy style)で28%、正常位(Missionary)は20%となっている。日本では正常位が圧倒的な多数派で順序が逆になるのは、男性主導型が神代からの伝統からか?  世界規模でみれば、騎乗位(=茶臼)が多いと云うことは、この世界でも「レディーファースト」なのか?

さて、これまでは大八州(おおやしま=日本)での話でしたが、古事記上での二神のストーリーはここで終わっているのではなく、まだ延々と続くのだが、ひとまずここで終わることにして、大八州の外側の世界も少し覗いて見ましょう。

旧約聖書の「創世記」によると、天の神は土をこねて人間を作り、それに生命を吹きこんでアダムと名付け、エデンと呼ぶ楽園に住まわせた。
しかし、そこはいかに楽園であっても一人だけ住んでいるのでは大へん淋しい。それでアダムが夜寝ているとき、その肋骨を少し切り取ってもう一人の人間を作った。それがイブである。アダムは男性であり、イブは女性であってこの二人は結婚第一号となったのである。
このことを英国の文豪ミルトン(16世紀の詩人)が長編叙事詩で書いている。書名は「パラダイス・ロスト」、日本語に訳して「失楽園」である。
詳細は省くが、楽園で幸福に満ち足りた生活をしていた二人だが、サタンの誘惑で禁断の木の実を食って、楽園を追われたりした。現世では喜怒哀楽も知り、今まで毎日二人とも裸でいたが、急に恥ずかしさというものを感ずるようになり、やむなく無花果(いちじく)の葉で局部を覆うようになった。 また、そのため今までと異なった性的快感を感ずるようになり、やがて淫楽にふけるようにもなった、そして、この二人にはカイン、アベル及びセツという三人の子供がうまれた。などと書かれている。

最後に、ギリシャ神話による結婚第一号のことである。
大昔、この世は天地が混沌としていて、どこが天であり地であるかはっきりしていなかったが、そこに愛の神エロスや、天の神ウラノス(昼の神)、地の神ガイア(夜の神)などがあらわれた。
そこで、「愛の神」エロスは天地が混沌としており、昼も夜もはっきりしないのでは困るので、二人の間に入って中を取りもち、二人を結婚させたのである。
ところが、どうしたものか二人は子供をつくるのが大変下手であった。手が沢山あったり、目が額の真ん中に一つだけ在るものなどで、父親のウラノスもたまりかねて、子供を土中に埋めてしまった。
しかし、幸いその後は五体満足な子供が生まれ、父親のウラノスもやれやれと喜んだ。
ところが、今度は母親のガイアがいけなかった。五体満足でない子供を沢山産んでノイローゼになっており、健康な子供も殺すのではないかと思い込み、子供にけしかけて父を殺させた。
殺されたウラノスの体の一部が海に投げこまれ、そこに白い水の泡が取り巻いた。そしてその中から一人の美女が産まれた。「美と愛の神」アフロディーテである。いわゆるビーナスである。ギリシャ神話はこのように、悲劇的なストりーが多い。

ギリシャでは、国民性もあるかと思いますが、エロスの神やビーナスの神など女神が描かれるときは全裸ヌードが普通です。ここでギリシャに関する面白い調査がありますので紹介して話を終りにします。 イギリスの大手コンドームメーカーが、全世界26カ国、2万6000人を対象に、セックスの頻度などについてアンケート調査を行なったところ、ギリシャがダントツの一位だそうです。以下、ブラジル、・・・と続きますが、なんと日本は堂々の最下位だそうです。 1位のギリシャは、なんと1年間に164回です!つまり、2日に1回はセックスをするということです。
伊耶那岐命・伊耶那美命嘆きて詔りたまひし「豊葦原瑞穂国の民よ、もっと麻具波比を」と。


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