乃木静子の「母の訓」
 明治時代の女性により書かれた「母の娘に与える心得」。
 静子自身が書いたものか、或いは古くから家訓みたいに伝えられていたものか。自分には娘がいなかったので、
 姪の嫁入りの際に心得として渡したとも云われている。
 文書出典:http://tokaido.canariya.net/yj-02/2nogi.html
      http://from76.exblog.jp/d2015-10-10/

 乃木静子: 安政六年(一八五九年)十一月二十七日、鹿児島藩医湯地定之と貞子夫妻の四女(七番目の子)
 として薩摩国鹿児島郡鹿近在塩屋村に出生。 後、陸軍大将・乃木希典の妻となる。
 明治天皇が崩御の折、乃木邸(現港区赤坂にある乃木神社)に於いて、希典と共に自害・殉死した。
 

「母の訓」抄

<常の心得>

1、女性は性順に礼儀正しく恥あるを淑徳と致候。淑徳なければ公家大名の姫君にても下素に異なることなく、下賎の卑女にても淑徳備 はり候へば、 公家御大名の奥方とも仰がれ可申候。 御輿入れ後は、順をもって御心とあそばされ、何事に就きても、殿御に口を返し又は荒々しき挙動を、或はみだりがしき行為など夢あそばされまじく候。

2、色を以て男につかふあるは妾のことにして、心 を以て殿御につかふるは正妻の御務に候。 故に御輿入先の殿如何に多くの妾おわしまし侯とも、色 を以て之を争ふなど、はしたなき御振舞あそばされまじく候。

3、奥方は気品髙きを良といたし候。去りながら気品高ければ情薄くなり、情濃やかなれば品格を失い、中庸を得ること時に六ケ敷候。
・・・(中略)


<閏の御慎の事>

5、御色気薄きは情なし、情なければ御夫妻の御中睦からず、終には御家の滅亡とも相成申 べく候まま御色気に充分なるを可と致候。 然れども色は乱れ易きものにして愛想をつかさるるは最も多く候故に閏中においては特に御淑徳を尊び順を以て助け、礼を以て乱を防ぎ、恥を以て色を補ふ事に侯。 殿より如何に迫り給ふと自ら進んで商ふ歌妓に等しみだらの御振る舞い必ずあそばされまじく候。

6、用事終れば寝所を異にし給ふべし。寝所一つなればきっと愛想をつかさ申しべく候。

7、閏中に入るときは必ず幾年の末までも、始めての如く恥かしき面色を忘れ給ふべからず。 狎れ恥かしき面色なければ、妾の如くなりてその品格を失ひ、用事済みて必ず殿御の心に嫌気起り 度重なるに従ひ、必ず愛想をつかされ申すべく 候。

8、殿御はどなた様にても寵愛の増すに従ひて 種々なされ、枕辺に笑絵を開き之を眺め、または陰所に手を入れてさぐりなどし給ふことあり。 かようの時、心がけ なき女性は、興に乗じあられもなき大口を開き、 或は自ら心を萌して息あらく鳴らし、恥もなき挙動をなさるる御方様もありとか申事に候。 従ひて殿御の用事にかかり給ふ時は、種々にして曲を尽くし充分に仕たく思ひ給ふが常なれども、 用終れば見るも嫌になる由申事にて心に下卑み申し候。 色は柔らかくして恥ずかしき内に味あるものにて、恥かしき面色ある程情深くなり申候故に殿御閨入り給ふ時は、必ず恥を含みて静かに入り、 殿 御より興に乗じて種々嬲り給ふことありとも 荒々しく之を拒むは情を失ふを以て、只々殿御 の胸に顔を差入れて恥ずかしく思ひ給ふべし。
又殿御用事にかかり給ひなば、殿御の胸に顔 を確かと差当て聢と抱きつき余り動かし給ふべからず。 また 如何に心地好く耐りかね候とも、たわいなき事を云ひ、又は自分より口を吸ひ或は取りはづしたる声など出し給ふべからず。
又殿御佳境に入り給ふには殿御より先に又は同時 に入り給ふべし。
殿御佳境に入り給へば如何に溢るる共耐へて、殿御の措き給ふときに止め給ふべし。

9、閨の用事終れば始末し給ふに紙の音など殿御の耳に入らぬ様心掛けらるべく候。 用事終れば殿御の御心色に飽き給ふ時なるを以て、陰を現さぬよう様に意を用ひて静かに始末し給へば、品よく時に麗しきものにて候。 斯様のときには、海棠の雨に打たれし譬ひの如 くなるを可と致候。

10、殿御の御寵愛勝れて昼も房に入れ給ふ事あ れども、無下に拒み給ふは情に背き給ふなり、 されば房事にても弥増して、一倍深く慎み給ひ如何に御心地宜しとも、 襠(うちかけ)を解きたまふべからず。 殿御佳境に入り給へば静にし厠に至り、始末 して其の帰るさに腰元に仰せず自ら御手拭を水に濡らして持ち帰り、跪いて顔を背け殿御に差上 げ給ふべし。

<朝夕の心得>


11、朝は必ず殿御に寝姿を見られ給ふべからず。 疾く起きて化粧を施した顔にて殿に会ひ給 ふべし。殿御は毎朝麗しき莞爾たる奥方の顛を見給ひなば、其の日一日の苦難を忘れ給ふなり。

12、晩に特に麗しくして殿御と御会食し給ふベし。斯く遊ばさば、妾を思ひ給ふ暇なく御身健 かに御運は妨げなかるべく候。
(中略)

18、御家大事ともならむ時は能く其心を鎮めて殿御に従ひ奉り、武門の習ひにて討死ともあらん時は女々しき御挙動なく潔く殿御と共に 御自害遊ばされ、末代の誉れを残し給ふべし。


注: 全ての挿絵は原文にはなく、当頁編集者が独自追加挿入したものです。文章部は原文通り。

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